自然農法(無施肥無農薬栽培法)についての覚書
(1983年報告)

(1998年5月29日増補)

水田での知見
蔬菜畑での知見
まとめ
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 岡田茂吉師は、真の食物を生産する方法として、自然農法(無肥料栽培法)に関する教えを説かれましたが、その教えにそって農業を実施すべく、数十年来、努力してきている多くの人々が日本におります。教えの理解、解釈が不十分な現在におきまして、私共には、これらが教えに正しく従っているかどうかの判断はできませんが、それらの中には、滋賀県の田中一枝、京都の伊佐雪子、上田重作の諸氏のように、注目すべき成果をあげている水田と畑があります。これらの中から、水田作に関しまして田中一枝さんの水田を中心に得られた知見を紹介させていただきます。

(A)田中一枝さんの水田より得られた知見
 田中一枝さんは、滋賀県栗東町で、1951年から15アールの水田で、自然農法を実践しております。化学肥料、農薬はもちろんのこと、有機物を一切施用せず、灌漑水をかけ流しにしているのが特徴であります。病虫害の被害は少なく、風に強いと言われ、玄米収量は10アール当たり400キログラムを安定してあげております。これは、周辺農家の収量の70%に当たります。また米の品質、食味は良く、とくに食物が喉を通らない重病人からは、胃におさまりやすく得がたい食品として喜ばれています。
 近畿大学農学部の研究者らは、1974年ごろからこの水田に注目し、隣接する施肥田を対照田として調査研究を行っております。その調査研究結果の大要は、次の如くであります。

1 栽培品種ベニアサヒの特性
 栽培品種ベニアサヒは、1951年当時この地方で栽培されていた品種で、爾来自家採種されております。ベニアサヒは、施肥量の少ない時代に栽培されていた晩生品種であり、現在の多収品種との比較試験の結果、無施肥田への適応性が高いことが判明されました。また、無施肥田産米は、対照田と比較して、糖層が剥離しやすいこと、白米の硬度が硬いこと、食味がよく、とくに古米になった場合の食味低下度が小さいことなど栽培者の所見が立証されました。

2 無施肥田での冬雑草
 春耕直前の調査で、対照田(隣接施肥田)では、コンバインで細断された稲藁が田面に散乱し、冬雑草の成育はかなり抑制されておりましたが、(稲藁もない)無施肥田の冬雑草乾重は、対照田の半分以下でありました。このことは、冬期間の土壌養分の著しい欠乏を反映するものであります。

3 無施肥田でのイネの生育
 移植後約一か月間の初期生育は、養分欠乏のため不良で、特に分げつの発現がおくれましたが、7月に入りますと、地温上昇に伴って、土壌から生成するアンモニア態窒素の増加によって、葉色は濃くなり生育は好転しました。
 生育の中〜後期には、根の生長が対照田では停滞したのに反し、無施肥田では、生育末期まで生長をつづけ、根量は対照田を上廻りました。
 イネの生育は“秋まさり”の傾向を示し、登熟期においては、葉は強剛ですべて直立し、受光態勢はよく、登熟は極めて良好であります。玄米収量が抑えられるのは、穂数不足のためであります。
 また、栄養生長量は対照田に比して劣るため、田面の受光量は勝り、日最高地温(5p深)は6月下旬以降2〜4℃高く経過しました。

4 無施肥田における栽植密度
無施肥田では、平方メートル当たりの葉面積が、対照田の半分であり、このことは、株の間隔になお余裕があることを感じさせましたので、栽植密度試験を行なった結果、無施肥田では、イネの生育に対する競合要因は光条件ではなくて、株の占有地積内の養分量であることが分かりました。したがって、株数を現在のu当たり現状の19株より増しても、収量を向上させる可能性は殆どないことが結論されました。

5 無施肥田での灌漑水からの窒素供給
水田での窒素の天然供給源は、灌漑水、土壌、生物的窒素固定の三者でありますが、田中さんの水田では灌漑水のウエイトが重いことが判りました。
 この水田への灌漑用水中の溶存アンモニア態窒素は0.224mg/lで、純農村型の用水よりは多少高い値を示しているが、用水中の全窒素量は0.941mg/lで、前者の約3倍の窒素量を含む懸濁物質を含んでおります。なお、前者の一部は、直接イネや微生物に吸収せられ、一部は土壌に吸着され、後者は水田全体に分散し、水口に近い所により多く沈積し、水田土壌の全窒素量に影響を与えていることが判りました。なお、用水量の総量はまだ確認されておりませんが、おそらく普通水田の6〜10倍と見込まれます。なお灌漑水量を規制すると、生育、収量が減少しますが、その減少率は水口に近いほど大きいことが明らかにされております。

6 無施肥田における土壌全窒素量
土壌全窒素量の大部分は有機態窒素からなり、その一部が無機化してイネに吸収利用されております。
 無施肥田での調査によりますと、土壌全窒素量は常に水口、中央、水尻の順に大で、各地点とも湛水後から漸増して7月下旬にほぼ最高となり、収穫期には湛水前のレベルにほぼ復しております。
 このような時期的変動は、灌漑水による窒素付加量と、イネによる窒素吸収量の関係から生じております。なお、4か年継続して7月初旬に測定した水田中央部の全窒素量は、平均値で対照田の約70%に当たり、無施肥田土壌の全窒素量が必ずしも著しく低くなく、また4か年の間には、全窒素量の減少傾向はみられなかったことは、イネが土壌から吸収した窒素量にほぼ近いものが、灌漑水より、補給されているものと考えられます。

7 土壌有機態窒素の無機化量
土壌有機態窒素の無機化量は、生成するアンモニア態窒素量で測定されますが、無施肥田で稲作期間に生成するアンモニア態窒素量は、対照田の130%であることが、次の二つの測定値を用いて推定されました。
 即ち、30℃10週間の湛水静置法で求められました無施肥田土壌の潜在的な無機化量は、対照田の126%であり、また無施肥田での稲作期間中の無機化に対する有効積算地温(15℃以上)は、対照田の110%に当たります。

8 無施肥田での生物的窒素固定能
イネの根圏における窒素固定細菌による窒素固定能は、無施肥田が対照田に勝ることが、多くの測定実験により明らかになりました。
 すなわち窒素固定能は、無施肥田と対照田から採取したイネの根または根圏土壌について、或は両水田土壌によるポット栽培を行って、そのポット全体または根について、アセチレン還元法によって測定しました。なお、光合成を営むらん藻については未調査でありますが、無施肥田では田面の受光量が対照田より多いため、らん藻による窒素固定能は無施肥田で勝るものと考えられます。

9 (無施肥田での)イネのいもち病抵抗性
無施肥田と対照田にベニアサヒを栽培して、数回にわたって試料を採取し、接種試験を行なった結果、無施肥田では全生育期間を通じて、いもち病抵抗性が大きく対照田に勝りました。
 また無施肥田で登熟期の葉のケイ化細胞数が激増しましたが、これは穂首いもち病などの発生にかなり抑制的に作用することが分りました。
 うんかについては、実験はまだ行なわれておりませんが、1961年のうんかの大発生に際し、施肥田では収穫皆無のものもあったのに反し、無施肥田では、被害が軽かったことが栽培農家により伝えられております。

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(B)上田重作氏らの蔬菜畑より得られた知見
 自然農法蔬菜畑についての実験はほとんど未着手であり、今後の調査、研究にまたれているのであります。ここでは、約10年前に、水田を畑化し、爾来化学肥料と農薬はもちろん、有機物をも一切施用せず、トマト、キュウリ、サツマイモ、ネギ、ダイコンなど10数種の作物をほとんど連作によって栽培している京都市山科の上田重作氏の畑で経験的に得られた知見を若干紹介いたします。なお、隣接地に対照となる施肥畑が存在しないため、生育、品質に関する比較調査は困難でありました。


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むすび

 このように、私共は、岡田茂吉師の提唱された教えが出発点となり、今後いろいろな分野での研究が科学者の方々によって進展し、何らかの形で人類社会の永遠の幸福のために生かされることを、心より期待しているのであります。

以上は1983年の報告をまとめたものです。

最近の研究については、近日中に報告します。

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